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輪島で最も新しいことにチャレンジし続けている創作工房「輪島キリモト」
(画像引用:輪島キリモトhttp://www.kirimoto.net/bowl/kofukuwan.html)
輪島キリモト・桐本泰一(きりもと・たいいち)代表にインタビューをさせていただきました。
輪島キリモトの七代目である泰一氏は輪島の中でも特に新しいことにチャレンジし続け、積極的に発信している創作工房代表者です。
輪島の先人たちが作り上げたブランドである「知られているけど知られていない輪島塗」を世に普及すべく頑張っています。
「輪島塗」の伝道師・語り続ける桐本さん
-まず輪島塗の基礎知識から教えてください。
漆器考古学の先生(輪島漆器技術研究所)によると輪島の地では室町時代以前から漆器を作っていたのではないかと言われており、通説の江戸時代後期くらいから現在のような技法になっていったと言われています。
それに加えて日本海に面したおかげで一年中湿度が高いことも漆器の生産に適していたのでしょう。輪島はそうめんと塩が名産。海から隆起してできた半島なので、肥沃な土地による米・野菜が美味しい土地柄なのです。
「このような辺鄙(へんぴ)なところだからこそ特徴のあるものを作ろう」という先人たちが、きちんとした最高の物を作って他の産地に打ち勝とうという戦略を江戸時代半ばに実行してきたわけです。
(写真・輪島で最も夕日が美しいといわれる「千枚田」)
全ての椀木地を兼ね揃えている輪島塗
椀木地は大きく分けて
・挽物(ひきもの)=ろくろを使って削り形作るもの。漆器の代表的なかたち。
・曲物(まげもの)=丸盆やおひつなど側面の板を曲げてつくる。
・指物(さしもの)=釘を使わずにほぞ・溝を使うもの。輪島では箱物を指す
・朴木地(ほおきじ)=花台・仏具の前机などの複雑な形やカーブ・刳(く)り加工が施された脚などのこと
に分類できます。
この4つともまだきっちり分かれて残っているのが輪島の特長で、他の産地には全く見られず、他の漆器産地では椀だけ、曲げ物だけという特徴があります。
これぞ輪島塗!とてつもない堅牢生
-輪島塗のすごいところを教えてください。
まず「漆」という素材は数ある伝統工芸の中でも最強だと思っています。
100以上の工程を手作業で行っていて、大きくは「木地」「きゅう漆」「加飾」に分かれます。
(参考サイト)http://wajimanavi.lg.jp/www/view/detail.jsp?id=1580
全部で9層にもなる重ね塗りによる堅牢性こそが輪島塗の強さ。桐本さんはこの塗りを「骨」と「筋肉」と「皮膚」に例えて説明します。輪島の強さは「筋肉」にあたる部分。
しかも輪島で使われている珪藻土はなんと1240万年前のもの。他で取れる珪藻土に比べて極めて純度が高く、漆との相性が抜群であることからも高品質な塗り物ができる土壌があったと言われます。
その最高の珪藻土を用い、コストダウンをよしとせず「筋肉」質な塗りでしか実現できない強さとともに、「沈金」など漆器の表面を彫るための十分な深さを確保できるために表現の幅も輪島塗ならではの特徴です。
その後の「皮膚」に相当する部分は他のどの産地でもやっている漆の塗り物。輪島の強さは「皮膚」の前に施す気の遠くなるような工程にあったわけです。
-産地としての戦略があった
地理的ハンディを克服するために、他の産地がコストを落としてたくさん買ってもらうという戦略をとったのに対し、長く使ってもらって信頼関係をお客様と築くために堅牢性を求めた。
また「沈金法」といういわば”タトゥー”のような彫り込みも塗りが厚いからこそできる技法であり他の産地には真似のできない技法が発達しました。
200年を越える輪島キリモトの歴史〜下請けから一貫生産への挑戦
-輪島キリモトはどのような歴史を辿ってきたのでしょうか?
2代目の桐本久次郎が1814年生という記録が残っており、江戸時代後期での創業と言われています。4代目まで輪島塗の漆塗工房として営業をしていたと言われていますが、昭和の初め・5代目久幸の代に輪島塗の材料となる「朴木地」を取り扱う木地屋に転業して地位を確立。そこから約90年が経ちました。先代の6代目までに現在の規模まで伸ばしてきたのですが、なぜか7代目の私のときに塗師屋から販売まで全ての工程を分業せずに一貫生産・販売までする工房として大きく舵を切ったのが現在の輪島キリモトです。
2000年に輪島市内にギャラリーわいち開店、2004年東京・日本橋三越に店を出すなど前例のないことを積み重ねてきました。
現在は漆器木地の仕事が8%まで減ってきましたが、木と漆の創作工房として一本立ちできるような工房になってきましたね。
現場に立つことでニーズを知る。積み重ねたことをダイレクトに商品開発→一貫生産。
-7代目の泰一氏はどのような経歴を辿ってこられたのでしょうか?
高校卒業後、筑波大学芸術専門学群で生産デザイン(工業デザイン)を学びました。専門科目でグラフィックデザインやフィルムカメラ撮影を学び、白黒で撮る技法や現像を手作業でやるなどアナログな技術を身につけたのは今の自分に役に立っています。
その後一般企業でオフィスプランニングに携わったのち25歳で輪島へ帰郷、木地業の弟子修行を経て30歳のころより販売の現場に立ちました。
現在55歳ですから、それから25年。バブルが弾ける前に一貫生産を開始し、ギャラリーでの個展やテーブルウェアフェスティバル、見本市を初めとしてずっと販売の現場に立ち続けてきました。お客様の声を25年間聞き続けてきたことで、今作っているものに辿り着きました。
ーその結果お客様から多くのヒントを得たということですね。
つまりできるだけシンプルに、できるだけ傷がつかないものを。基本はシンプルに・スタイリッシュに。今の時代に合わせた、マンションや商業空間に溶け込むものを提案し続けたいと考えるようになりました。
(輪島キリモトホームページより 建築内装例 和食料理店カウンター天板)
名前だけ知られている輪島塗。本物を知って欲しい一心で25年
(輪島キリモトホームページより 千すじどんぶり椀・ねず)
-直せる漆器「輪島塗」
“筋肉”があることで割れたり欠けたりしても全くの新品に修理ができるということを知っていますか?
他の産地のものと違って、使い込んでも剥がれたりすることなく、しかも元に戻せるのでよく同業者には「商売が下手だな」と言われます(笑)。これだけ最強の食器は他にどこにもないのですが、これが伝わっていないことが輪島塗の弱点です。
僕のキャッチフレーズは「知られているけど知られていない輪島塗」。名前だけは知られているんですけど、その内容を知らない人がほとんどなのが実情。
店頭に立っていると「洗えないのでは」「え?直せるの?」って言う反応が25年以上続いていますね(苦笑)。
先人が積み上げたものを前提にして、新しい分野を切り開くのが私の役割と思っています。
例えばこれは明治44年つまり今から100年前の5代目の頃に作ったお椀。新品同様ですよね。
(編集部注:右側が100年前のお椀。左側は新品のもの。全く区別がつかないくらいです!)
輪島キリモトのこれから
-今後はどのような発信をしていきたいと考えていますか?
先ほど申し上げたように、バブルの真っ最中(1990年代)に大きな方向転換に向けて準備をしてきたことが今まで活きてきたと思っています。私個人は2020年の東京オリンピックのあとに日本経済が大きく傾いてしまうのではないかと危惧しており、バブル期同様その準備を今から始めなければいけないと思っています。
それが、自分たちでできるだけ”リアルな”現場の写真を、粗くても発信し続けること。Instagramやfacebookでの発信を頑張ることで、必ず自分たちの活動が日の目を見て誰かから我々の活動に対してお声がかかってくると信じています。このような新しいことに積極的にチャレンジし続けていることでできるご縁や、新たなお取引先との提携関係はオリンピック後に生き残るための資産になっていくことでしょう。
輪島キリモトInstagram https://www.instagram.com/wajimakirimoto/
輪島キリモトfacebook https://www.facebook.com/329769337128251/
最近ではこの輪島塗をどうやって正しくより多くの人に伝えていくかについて深く考え直す機会が増えてきました。例えば、お椀はお椀としてどうあるべきなのか。関係する全ての人たちを巻き込んで、今だからこそ「スタンダードなもの」を考え直すこと。
やるのは今しかありません。東京オリンピックまでに考え抜いていないといけないと思います。それまでに輪島塗を使うという”風”を吹かせたい。それは輪島キリモトだけではなく、全国のいろいろな人たちとの連携でムーブメントを起こしていきたいと考えています。
工房の様子を見学!”手間暇”の結集
ー最後に工房の様子を見学したお写真を共有します。
輪島キリモト http://www.kirimoto.net/
【輪島工房】 〒928-0011 石川県輪島市杉平町成坪32 Tel :0768-22-0842 Fax:0768-22-5842
【うるしの事務室】 〒135-0007 東京都江東区新大橋1-4-11-302 都営新宿線・大江戸線「森下」駅 徒歩9分 Tel & Fax:03-3631-0281 urushinoma@kirimoto.net
輪島キリモト お取扱店舗 直営店:本町店、金沢店、三越日本橋店(詳細はこちら) オンラインショップ:http://www.kirimoto.net/onlineshop.html その他お取り扱い店一覧 http://www.kirimoto.net/shop.html
[取材・編集 テーブルライフ編集部]