テーブルウェアフェスティバルまであと1ヶ月。東京ドームで出会える窯元をテーブルライフでは事前に取材しました!テーブルウェアフェスティバルに訪れる方は必見です!
注目の肥前吉田焼特集その1!副千(そえせん)製陶所・副島 謙一(そえじま けんいち)さん
肥前吉田焼(ひぜんよしだやき)は有田焼で有名な佐賀県・有田町から車で30分ほどの佐賀県・嬉野(うれしの)市を中心とした焼き物の総称です。焼き物だけでなく、日本三大美肌の湯「嬉野温泉」と「嬉野茶」も全国的に有名で、工場のまわりにはお茶の段々畑が連なっています。有田をはじめたくさんの産地が存在する肥前地区の中で、古くから日常生活で使ううつわを作り続けている産地。「有田焼」などと異なり、形や様式などこれといった特徴はありません。唯一の特徴は、日常生活に根ざしたうつわを作ること。その精神は今もこの地に受け継がれており、14ある窯元それぞれが思い思いに「今の生活」のためのうつわを作り続けております。
テーブルライフではブレイク寸前の肥前吉田焼の注目窯元に密着取材をすることができました。
上の写真は副千製陶所の代表的な急須。旅館やホテルでよく見かけますよね?この水玉の模様が副千の特徴のひとつです。
脈々と受け継がれてきた歴史と技術
-さっそくですが、創業者はどんな方ですか?
本家は「副正(そえまさ)」という生地屋(陶磁器の材料の納入業者)で、それが「副千(そえせん)」「副武(そえたけ)」に分かれたのがルーツです。そのとき創業したのが祖父で、私(謙一)が3代目になります。
もともと副正さんはかなり従業員も抱えていたので、そのときの従業員さんに何名か手伝ってもらうようお願いしてスタートしたようです。名前としては「副島」姓が江戸時代からずっと脈々と続けていきたようですが、時代の潮流に合わせて商売を始めたり辞めたりしている中で職人が動いていくのが嬉野ではよくあったと聞いています。
そのため、実際には数百年も先祖代々続けているのですが、窯元の歴史というとそんなに長く見えないのです。
水玉模様はグッドデザイン・ロングライフデザイン賞
-窯元の特徴を教えてください。
ホテルや旅館でよく見る「手彫り水玉柄」食器は、うちの最大の特徴です。この水玉模様は、「掻き落とし」という技法を用いて、ひとつひとつの丸を職人が手描きしています。藍色の部分を、円の大きさ、深さ、円同士の間隔を均一にしながら、回転するドリル状の器具を使い、文字通り藍色を「掻き落と」していきます。2010年グッドデザイン・ロングライフデザイン賞をいただきました。
この水玉の模様はもともと波佐見の商社からの依頼で副千製陶所と副正製陶所が製造していました。受賞以降、全国的にこのデザインが流行始め、似たような水玉が増えたりしたのですが、うちの水玉は彫っているのが特徴です。ユニバーサルデザインとして打ち出しています。
そして、この水玉は彫り込みに注目されがちだが実は「化粧土」が肝なんですね。あそこまで鮮やかな青を出すためにはこの化粧土がないとダメなんです。
「絶滅危惧種」の茶漉し職人
また、わたしの母は、茶漉しの穴が開けられる職人です。
実は茶漉しの穴が開けられる職人は佐賀ではあと2件だけ。母もとうに60歳を超えており、やめられてしまうと供給できる業者がいなくなってしまいます。
先日ディスカバージャパンから「絶滅危惧種」的な職人がいないかという打診があったくらいです。
あとはもともと生地屋なので、自社で石膏型から生地を作っているのも吉田の中では珍しいと思います。有田周辺はみんなそうですが、基本は分業になっているので、一貫生産をしているところは少ないですね。
デザインへのこだわり「言葉や人をつなぐのがデザイン」
-商品のトレンドみたいなものは感じますか?
2010年のグッドデザイン賞から潮目が変わってきた感じがします。
最近になって世の中の見方が伝統産業を使って新しいものを作ってみたい流れがあり、仕事の形態が変わってきた気がします。
今までは有田や波佐見の商社さんがアンテナを張って商品開発を引っ張ってきていたが、最近は正直それでは消費者のニーズに応えきれていないような実感があります。デザイナーやもっと他の分野の人たちが関わってくる広いアンテナが必要で、それを伝統産業の技術を持って実現していくことを求められているのではないかと感じています。
デザイナーさんたちも今まではグラフィカルなもの=色や形を作るだけの人たちという印象だったが、今は「言葉や人と人を繋ぐ」役目の人もデザイナーの枠に入ってきているので、仕事の内容が大幅に変わってきた自覚がありますね。
つまり「ものを作っているだけではダメ」という意識が根付いてきたということでしょうか。作ったあとに使い方の提案や世界観を提示したり言葉の投げかけをしていくことが大事なのだと思っています。
シンプルに。とにかく単純化すること
-過去の作品がどういう風に変化してきましたか?
縛りをなくして自由にやってきた先代に対して、自分は縛りをかけてものを作るのが
・具象的なもの(葉や花などのモチーフ)は使わない。
・単純な線で書く
・手数を減らす
・失敗してもやり直さない
などのルール。具象的な柄があると季節感が出てしまうためデザインがやりづらくなるんですね。幾何学的にするとそれが入りにくいんです。
(先代の作品の例:モチーフが使われている)
(現在のデザイン。単純な線でシンプルなデザイン)
今後はシンプルな中に和のテイストがあってそれを感じられるものを目指したい。「特別昔の柄を使っていないのに骨董のテイストが入っているデザイン」がある意味完成形かなと思っています。
とにかく、たくさん買ってもらうためには自己主張しないデザインを目指すのが一番だと感じています。
ー急須以外だと比較的小さなうつわが目立ちますが?
うちは小さい商品(豆皿やそば猪口など)が多いですね。大きいお皿でシンプルなものを作ると、瀬戸や多治見のような大量生産品と比較されてコスト面で勝てない事情もあり、できるだけ単価を抑えるため小さい商品に軸足を置いています。たまに「このデザインでこの大きさのものはない?」と聞かれたりすることもあるのですが、対応はできまていません。
-水玉シリーズが人気が出てきたところで、続編のシリーズを作っている気はありますか?
実は製造上そんなに簡単なものでもないので、数を増やしていくことには積極的ではありません。要望あればシリーズ展開などにも対応するけれども、積極的に作品展開しようとは今のところ思っていませんね。それよりも「個別ブランディング」で作り上げた世界観を大切にしていきたいと思います。
積極的に新しいことにチャレンジして、吉田焼の将来を変えていきたい!
-お人柄について
現在46歳。今仕事している窯元やデザイナーさんたちは脂が乗っているのも自分の前後5歳くらいでいい世代だと思います。この仲間内で飲み会をやると仕事の愚痴だけでなくて「将来どうしていく」とか「こうしていきたい」という将来の話が積極的に出てくる雰囲気があります。こういう流れで仕事ができていることが楽しくてしかたありません。
224porcelainの辻諭(つじ さとし)さんはこの6年くらい積極的に嬉野の外に出て行っていろいろな情報を吉田にいる我々に伝えてくれました。自分はその間外には出ずに、茶こしや水玉のような「武器」を磨くことに集中していた気がします。
(出典:肥前吉田焼ホームページ https://www.yoshidayaki.jp/products/)
潮目が変わってからはその両方を繋ぐことで新たな価値が作れることを実感し、さらに新しいことをやってみたいと思うようになりました。最近では辻諭さん(224porcelain)の活動に賛同し、デザインコンペの商品化にもかかわっています。
生まれながらに陶芸の道へ。自然と「楽しいこと」を知った環境にあった。
-謙一さんがこの道に入ったきっかけを教えてください。
会社に入ったのは24歳のとき。このあたりだとよくあるキャリアですが、有田工業高校デザイン科を卒業後その隣にある有田窯業大学へ行き、その後東京の焼き物屋さんで3年間だけ働きました。
小さい頃から工場にいて遊んでいたりしたので「陶芸」「ものづくり」は楽しいことを知っていたというのもあって、その道に自然と進んだという感じですかね。
-ご苦労されたのでは?
実は陶芸をしていて大変だと思ったことは一度もないんです。6年前に父が亡くなり会社を継いだが、それが大変だったかというとそうでもない。全ては経験になるし、会社経営というのはそういうものだと思うだけですね。
-逆に陶芸をやっていて一番嬉しかったことは?
納得いくものができたりしたとき。焼き物って狙ったものが狙った通りにできるのは稀なので、「会心」というものができることはあまりない。
あとは同業者から「これいいね!」「商品を欲しい!」と言ってもらえるとすごくうれしいです。やはり同業者の評価が一番シビアですからね。
-OFFについて
お酒を飲むことが大好き。ビールを飲むために野球をやったり、ミニバレーの大会に出たりするのが趣味。(あくまでビールのために何かする)
あとは商品のアイデアを出すためのストックを意識しますね。すぐにデザインに直結するわけではないのですが、本を読んだり展示会や足を運んだりしてイメージをストックしておいて、いつかどこかで役に立てるような感じですかね。
子ども(お子さんはお嬢さんお2人)だが、特に後継してもらいたいとは思っていない。私の2歳下の弟でも、弟子入りする血縁のない人でも継げればいいし継げなくてもいい。
-今後の展示会の予定は?
テーブルウェアフェスティバルには組合としてですが出展します。
副千製陶所 佐賀県嬉野市嬉野町大字吉田丁4116−14 ℡0954−43−9704
[取材・編集 テーブルライフ編集部]