唐津の新しい風「熊本象 陶磁展」 ~日本橋高島屋S.C.~
「唐津焼が今熱い…」
うつわ巡りをしていると、よく耳にするフレーズです。
正確に言うと「唐津で作陶する作家さんうつわが今熱い…」。唐津焼の人気はいつの時代も衰えを見せませんが、昨今では、唐津焼の伝統をしっかりと継承しつつ、次の時代を担う若手の作家さんが大注目されています。
その若手作家を代表するひとりである、唐津の赤水窯で作陶をする熊本象(くまもとしょう)さん。斬新でスタイリッシュで「土もの」である唐津焼のイメージをがらりと新しくするほどのインパクトをもつ作風が、多くのファンの心をつかんでいます。
そんな熊本象さんのうつわには、全国で年に数回開催されている個展で出逢うことが出来ます。
「熊本 象 陶磁展」開催~日本橋高島屋 S.C.~
日本橋高島屋では年に一度、ちょうど立秋のころ、秋の訪れをほんの少しずつ感じるときに、熊本象さんの個展が開催されます。会期中はすべての日程でほぼ象さんが在廊されるというとてもうれしい展示会です。
うつわと出会うときに、作り手である作家さんからうつわにまつわるエピソードや作陶についてお話を伺うと、そのうつわへの思い入れがぐっと高まりますね。高島屋で開催され象さんの個展は、象さんにもお会いできるとても魅力的な個展です。
「私は唐津焼の作家ではありません」
唐津の作家さんの総称のように「唐津焼の作家」と言われますが、熊本象さんは「私は正確には唐津焼の作家ではありません。唐津で作陶する作家です。」と念を押されます。
唐津焼の最大の特長は、茶の湯で重宝されたわびさびの美しさと共に、多くの種類の技法があるということです。絵唐津や黒唐津、朝鮮唐津、三島唐津、斑唐津、粉引といった様式が受け継がれていて、この技法によって作られたものを「唐津焼」といいます。
唐津やきもん祭り会場:旧唐津銀行
そのように語る象さんは、唐津焼の技法にとらわれない、自由な作風でうつわを作っていますが、唐津焼の様式美を決して忘れることはありません。
むしろ、様式美を大切にベースに取り込んで、見事に自分流の技法と作風を創り出し、唐津のうつわの世界の新しい扉を開いているように思いました。
熊本象さんのうつわとの出会い
私が初めて唐津焼に触れたのは、毎年ゴールデンウィークにJR唐津駅前で約一週間にわたって開催される唐津のビッグイベント「唐津やきもんまつり」です。
唐津やきもんまつりのコラムはこちら
熊本象さんの赤水窯は、中町Casaという、かつて歯科医院だった洋風レトロな素敵な建物の2階ギャラリーで展示されています。中町Casaは唐津市の文化財にも指定されています。盆栽作家、島津拓哉さんの作品との美しい演出です。
赤水窯の展示会場:中町Casa
唐津の窯元さんは一か所に集結しておらず、陶土や釉薬といった唐津の原料が豊かにそろう山間などに点在しています。車でないとなかなか訪れることができないうえ、それぞれが離れていることから、一日で2~3軒の窯元さんの訪れるのが精いっぱいです。
また、窯元さんによってはうつわは主に個展やショップに向けて出荷しているためせっかく窯元を訪れても十分にうつわを見ることができないというエピソードも聞きました。
そのような唐津やきもの事情があるなか、約50軒の窯元さんが一堂に集結する唐津やきもんまつりは陶器市というカテゴリーを超えて、うつわの一大エンターテインメントともいえると思います。
うつわ好きの方のみならず、初めて出会う方も唐津焼の世界を堪能できます。
唐津海岸 西ノ浜
唐津やきもんまつりでは様々な作家さんの唐津焼を楽しむことができましたが、ひときわ際立ったうつわがずらりと並んでいて、今まで見たことのない新鮮なうつわにびっくりしました。これは磁器なのか陶器なのか?、唐津なのに磁器とは?…というのが第一印象でした。
それは熊本象さんの代表作とも言える、唐津の白磁の緑彩のうつわ….。一つ一つくっきり鮮やかに輪郭が空間に浮かんでいて、まるで画像のコントラスを施しているかのように、うつわの形とシャープな彫りが際立っていました。
その時の衝撃を今でも覚えています。
熊本象さんの唐津の形式に囚われない独自のうつわの作風に、新しい唐津の風を感じました。
「熊本 象 陶磁展」より~うつわギャラリー~
熊本象さんは、唐津焼作家である熊本千治(くまもとちはる)さんの赤水窯の二代目として作陶をしています。
有田窯業大学で作陶を学び、唐津の天平窯、岡晋吾さんに師事しました。お父様の千治さんが従来の唐津焼とは異なる彫刻的な作品も作られているように、象さんは唐津のイメージをひっくり返すような「磁器」を中心に、現代的な食卓にもスタイリッシュに合ううつわを作っています。
象さんは有田や伊万里、波佐見の真っ白な磁器と少し違った、柔らかい優しい白磁を創り出しています。表面のマット感と秘伝の釉薬からほんのり浮かび上がる緑のエッセンスがとてもさわやかです。
【赤水窯(あかみずがま)】 住所:〒847-0022 佐賀県唐津市鏡4758 電話:0955-77-2061 営業時間:11時~18時 定休日:火曜日(要問合せ) HP:https://akamizugama.jimdo.com *JR筑肥線 虹の松原駅より徒歩10分 *二丈浜玉道路(西九州道)浜玉ICから国道202号経由4km 約10分
くっきりとシャープで切れ味のよいスタイリッシュなフォルムは、象さんの最大の魅力のように私は感じています。一番衝撃を受けたうつわです。
白磁輪花の鉢。彫りが美しく…そしてカッコいい…。
白磁輪花大鉢 うっとりする美しい輪花のうつわ。彫りの部分に釉薬が溜まりうっすらと緑色が浮かび上がります。これが象さんのうつわのしびれる魅力です。
片口のうつわの象さんの腕にかかるとこのようにすっきりとカッコいい片口に仕上がります。
白磁のうつわに織部の緑の釉薬で彩った片口。
「唐津緑彩大皿」
象さんの「唐津焼」。唐津焼の陶土である唐津の土を使い、象さんの美しい緑の釉薬で作られた唐津緑彩。
「唐津緑彩急須」
素焼きをしない状態で釉薬を掛けて焼いたらこのように鮮やかな美しい表情のうつわが誕生しました。
象さんは、今回、試みとして素焼きをしないで釉薬を掛けて焼成することに挑戦してみました。同じ土と釉薬を用いても、工程に違いによって生み出されるうつわの表情の違いをとても興味深く伺いました。
高台がしっかりあるうつわでない素焼き前のうつわの形がが崩れてしまいます。とても高度な感覚と技がないとできないと思いました。
左下は素焼きをした後に釉薬をかけて焼いたもの。同じ陶土、同じ釉薬を使っていますが、工程の違いでこのような違いになりました。どちらもとても美しい魅力を持っています。
黄色の釉薬のうつわも色鮮やかです。
象さんのうつわは黄色がとても美しいです。
今回の個展で面白かったのは、予期せぬ偶然の産物であるぐい呑み。どうしてこのような色が浮かび上がったのかわからない、美しいうつわが二点誕生しました。
窯の中に残っていた釉薬の一部が落ちてきて化学反応が起こったのかもしれません..(象さん談)
まるでお花が一輪咲いているようです。
釉薬が薄かったところはラベンダー色に….
彫りの一本一本には釉薬がしたたり、にょろにょろした線が浮かび上がっています。
熊本象さんのオーバル皿と呼ばれるくらい、象さんのアイコン的な存在になっているオーバル皿は同じものは一つもない一点物の作品です。サイズはほぼ決まっているので違う柄でも揃えやすく、食卓でもコーディネートしやすいですね。
毎回の個展でコレクションするファンの方もたくさんいるため、個展初日から争奪戦です。
個性豊かなオーバル皿は、熊本象さんの世界が一枚一枚描かれています。
磁器のうつわは定番として、変わらないサイズやデザインで作り続ける一方で、アーティストとして自由に感性を表現できるオーバル皿は、象さんの個性やその時々の気持ちが伸びやかに表現されています。
手前のブルーのオーバル皿について、舞台やステージに例えて、主役を引き立たせるために周りに銀彩を施しましたとお話しくださいました。それぞれのオーバル皿が一枚ずつ舞台なのですね。
手彫りの印で施された三島が見事なオーバルの大皿。色ののせ方にも象さんの想いが込められています。今回私は一番惹かれたオーバル皿でした。
象さんの作品で最近特に大注目なのは三島手のうつわ。豆皿が大好評で、今回は一番出番が多い五寸皿をご披露くださいましたが、あっという間に完売でした。
お椀も完売になっていました。
ひょうたんの箸置きも合わせやすくてキュートですね。おめでたい場でも使えそうです。
豆皿は箸置きとしても使えるとても便利なうつわ。いくつも集めたくなります。
熊本象さんの個展レポートはいかがでしたか。象さんの世界をお届けできていましたらとてもうれしいです。
唐津の若手の作家さんは、伝統を大切に守り次の時代に受け継いで行くと同時に、自分たちの個性や新しい作風を追及して作陶に励んでいます。新しい唐津焼を牽引しているといっても過言でない、熊本象さんは研ぎ澄まされた感性と気さくで優しいお人柄が相まって、とても豊かな作陶を展開しています。
一見カッコよく凛とした象さんなのですが、うつわのお話を伺うと、まっすぐなまなざしで丁寧に心をこめて説明してくださいます。個展で象さんに会いに行くのもとても楽しみです。年に何回か開かれる熊本象さんの個展は、唐津のうつわの魅力に触れることが出来る、うつわ好きにはたまらない個展です。これからもご活躍が楽しみです。
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【日本橋高島屋S.C.本館】 住所:〒103-8265 東京都中央区日本橋2-4-1 代表TEL:03-3211-4111 営業時間:10時30分
【テーブルライフ編集部:リーフ】