【特集・フラッグス】有田で伝統とモダンを追求し続ける窯元集団にせまる!

【特集・フラッグス】有田で伝統とモダンを追求し続ける窯元集団!

日本磁器発祥の地、佐賀県有田町で受け継がれる技術と作品を作り続ける多くの窯元。

「フラッグス」という名の人知れず結成された7つの窯元の集まりは、有田という産地の中で文字通り「自分たちの旗」を掲げて想いを伝える集団として活動しています。

テーブルライフでは本邦初公開の「フラッグス」の素顔に迫り、全4回に渡ってそのルーツと魅力をご紹介します!

 

■フラッグスのメンバー(五十音順)

貝山製陶所(かいざんせいとうしょ) 藤本 和孝
皓洋窯(こうようがま) 前田 洋介
親和伯父山(しんわおじやま) 岩永 真祐
副千製陶所(そえせんせいとうしょ) 副島 謙一
陶悦窯(とうえつがま) 今村 堅一
福珠窯(ふくじゅがま) 福田 雄介
文翔窯(ぶんしょうがま) 森田 文一郎

年齢もバックグラウンドもバラバラの7人。彼らに「フラッグスとはどういうグループなのですか?」と聞いても「月に一度の飲み会で集まっているだけのメンバー」だと答えるだけなのです。

ミステリアスだが朗らかな雰囲気のある7人の窯元の社長たち。いったい彼らは何者で、どこを目指しているのか、じっくりお話を伺いました。

■「フラッグス」の結成経緯

佐賀県有田町を中心とする肥前地区(伊万里・有田・嬉野などを含む焼きものの一大生産地の総称)は、有田焼創業400年にあたる2016年に作品を出品するために、逆算して2年ほど前から佐賀県の事業として様々なプロジェクトが立ち上がりました。

そのうちのひとつがメイドインジャパンプロジェクト(MIJP)株式会社による「つたうプロジェクト」で、2014年から1期生が、それに1年ほど遅れて2期生がそれぞれ6窯元選抜されて集りました。フラッグスの原型はこのプロジェクトの2期生が主体となっています。

2015年夏− ここから全てがスタートしました。

プロジェクトのプログラムとして各窯元がお互いの工房を見学し合う試みを実施。とても意外なことに、これだけ窯業が盛んな有田地区においてお互いの工房を見学する機会はほとんどなかったと言います。

同業者に自社の工房を見せるということは、もちろん企業秘密的なことを見せたくないこともありますが、それよりもある意味自分の”恥部”をさらけだすような感覚があるのでしょうか。

そのような初めての体験としてメンバー全員の工房を見学し合ったあと、日本三大美肌の湯で有名な嬉野温泉にメンバーが文字通り「裸の付き合い」をし、焼肉屋でお酒を飲んで意気投合したところから今の関係性がスタートしたそうです。

「つたうプロジェクト」では「有田焼」とひとことで括っても、成り立ちや歴史・窯の規模・製品の特徴や得意な技法など、それぞれの窯元ごとに何もかもが違うという多様性を持っていることを今一度見つめ直すことを叩き込まれました。

その上で「自分の強みを最大限に活かしたものづくりとは?」そして「その想いを伝えるフラッグシップになること」をお互いに問いかけ続けたのがこの1年半だったと、メンバーは口を揃えます。

月に二度の「つたうプロジェクト」では、「自分にしかできないものづくりとは?」を自問自答だけでなくメンバー全員がメンバー全員のために考え抜き、リブランディングを命がけで取り組んできたわけです。

2016年11月− 有田焼創業400年事業は、有田では秋の陶磁器まつりでの展示を行うなど、日本各地から海外での成果発表を経て、12月末をもって終了しました。

当たり前なのですが、全ての有田焼400年事業は終了しました。これからあとはそれぞれがこの事業の成果を活かしてこの先の有田焼を作っていく時代に入ることを意味します。

「つたうプロジェクト」も終了し、月に二度集まっていたチームは一旦解散をすることになりました。ですが「プロジェクト自体は終了してもこの活動を自分達で続けたい」と感じたメンバーは、プロジェクトを「勉強会」に名前を変えて月に一度程度の集まりを継続しました。

(写真:福珠窯・銀彩染付 そば猪口)

この頃、想いや自分の強みなどが徐々に形になり始めていましたが、なかなかグループとして前に進まないことを課題として感じ、現在のメンバーのうち唯一1期生である福珠窯の福田さんをメンバーに加えました。さらに外部からの助言を求めるため、デザインを基点とした商品開発やプロモーション・ブランディングの専門家である promoduction の浜野貴晴さん(佐賀県窯業技術センター 外部アドバイザー)を迎え、勉強会を継続しました。

こうして現在の7窯元が集まり「フラッグス」はスタートしたわけです。

■「勉強会」の中身とは?

メンバーが自分たちのことを「フラッグスとは飲み会に参加しているだけの集まり」と言ってはばからないのには理由があります。

議論の主体は「伝える」

勉強会でやっていることは「つたうプロジェクト」で徹底的に叩き込まれた「何を伝えたくてそれを作ったのか?本当にそれでそれが伝わるのか?」を議論しているだけだそうです。

上下関係が皆無

メンバーの年齢もバラバラで、一番下は30代後半・最年長は50代半ば。しかし20歳も離れた年下から最年長に向かってかなり厳しい質問やツッコミが飛び交っているのが日常という向上心の塊のような集まりが「飲み会」の実態なのです。

(写真:皓洋窯・irodoruシリーズ剣先)

徹底的な「言語化」

また「つたうプロジェクト」ではプレゼンテーションの練習もしていたため、お互いの想いやビジョンなど通常では気恥ずかしくて語れないような部分までさらけ出した仲間内であればこその、無遠慮な意見交換が活発に行われます。

想いがあっても伝えられなければいけない。作品と生き方にメッセージ性を持たせること。そのためには窯元として、ものづくりの作り手として、ビジョンを明確にしきちんと伝えることを常に考え、伝えることを繰り返しています。

(写真:貝山製陶所・sikumiシリーズ、文翔窯・カトラリー)

部外者がこの飲み会を見たときには「え?こんなことまで言っちゃうんだ」というほどの緊張感で包まれているそうです。あとからこのメンバーに加わった福珠窯の福田さん曰く、「このときの空気感が凄まじい。何というか、試合中のアスリートたちみたいな感覚」とのこと。仲がいい友人同士という立場ではなかなか言いづらいことも、お酒の力を借りて(飲み会の初めだけですが)勢いよく刺してしまうという飲み会だそう。

(写真:副千製陶所 象嵌シリーズ)

今まで経験したことのないような刺激

1ヶ月に1度、お互いが考えて考えて考え抜いたことをアウトプットする時間を持つのがフラッグスの活動。そんなに毎月新しいことを思いつくわけないと思いますよね?

でも、自分以外のメンバーが成果を持ち合って飲み会に臨むわけです。たまたま忙しくなって「今月はあまり進捗ないな」と思って参加したときには、考えてこなかったことがバレバレになるといいます。それでも誰かが責めることは一切なく、黙って刺激を持ち帰るのがフラッグスのスタイル。

(写真:陶悦窯・ましら)

知らないからこそ、言える・気づく

冒頭にあったように、有田焼と一括りに言っても成り立ちや歴史・規模や得意分野が全く異なる窯元同士ならではの意見交換は、知らないからこそ言える・見えることが数多くあり、また誰かに困難が伴う場合は技術的・人脈的な助け合いもしていくことができるそうです。

(写真:親和伯父山・菊ノ馨(KIKU NO KA)シリーズ)

■フラッグスとしての活動の成果

作品という形で成果は出てきているわけですが、それだけでなくテストマーケティングの一環として、フラッグスのメンバーは各種コンテストへの出品を義務づけているとのこと。そして2018年4月「有田国際陶磁展 産業陶磁器部門 経産大臣賞(最高賞)」を福珠窯・福田雄介さんが受賞しました!

染付銀蘭手古伊万里松竹梅9寸平皿

毎日新聞:https://mainichi.jp/articles/20180419/ddl/k41/040/270000c

「おめでとう。とは言うが、率直に言って悔しいよ」と言い合う仲間。お互いをリスペクトし、もっと上を目指している証拠ですね。

■フラッグスの今後

これからは手にとって触ってもらうことを大事に、またそれを見て・触ったお客様との対話により「伝え・見せること」を意識していきたい。そのために福岡や東京でのテストマーケティング(展示会)を仕掛けていきたいと考えています。

場所も時期もこだわり抜く。すべては伝えるために。

有田焼創業400年事業では六本木ミッドタウンの展示や東京ビッグサイトでのインテリアライフスタイル展などに「つたうプロジェクト」の一員として出店したわけですが、いずれも「与えられた場所」での活動だったと振り返るメンバー。「伝えること」を一番に考えたときにベストな会場とタイミングはここでいいのか、という部分までメンバーと議論をして決めていきたいとのことです。

初めて自分たちで「伝える場」して選んだのは東京ドームの「テーブルウェアフェスティバル2018」。足を運ばれた方は覚えていらっしゃるのではないでしょうか。

(写真:2018テーブルウェアフェスティバルのフラッグス展示スペース)

伝える相手は?これからのお客様像

ターゲットは30代から40代の女性。年配の方は「有田焼」の固定ファンがいらっしゃいますが、裾野を広げるためにはこれからライフスタイルを充実させていく若い方々の感性に響くものづくりを進めていきたいとのことでした。

■フラッグス各窯元のご紹介

今回、フラッグスの各窯元を訪問し潜入取材を敢行しました。今回このような作品を発表したルーツとそのメッセージについて、詳細に聞いて参りました。テーブルライフでは全8回に渡りフラッグスのご紹介記事を配信していきます!

【関連記事】

  1. 【特集・フラッグス】有田で伝統とモダンを追求し続ける窯元集団!その1
  2. その1 貝山製陶所 藤本和孝さんインタビュー
  3. その2 皓洋窯 前田洋介さんインタビュー
  4. その3 親和伯父山 岩永真祐さんインタビュー
  5. その4 文翔窯 森田文一郎さんインタビュー
  6. その5 陶悦窯 今村堅一さんインタビュー
  7. その6 副千製陶所 副島謙一さんインタビュー
  8. その7 福珠窯 福田雄介さんインタビュー

お楽しみに!

■今後の展示会等の予定

※現在時期や会場を選定中です。現時点で確定しているものはありません。確定次第テーブルライフではお知らせしていきます!

[2018年5月28日現在 取材・編集テーブルライフ編集部]