【フラッグス・窯元潜入レポ】有田焼・陶悦窯 今村堅一さんインタビュー

【フラッグス窯元潜入レポ】有田焼・陶悦窯 今村堅一さんインタビュー

フラッグス窯元インタビュー第4弾は陶悦窯(とうえつがま)の今村堅一さん。フラッグスの中では最年長であり、懐の深い包容力と言葉の鋭さが際立つリーダー的な存在。年の差があっても一体感を高められるフラッグスは今村さんあってこそ、ということを実感したインタビューでした!

【関連記事】

  1. 【特集・フラッグス】有田で伝統とモダンを追求し続ける窯元集団!その1
  2. その1 貝山製陶所 藤本和孝さんインタビュー
  3. その2 皓洋窯 前田洋介さんインタビュー
  4. その3 親和伯父山 岩永真祐さんインタビュー
  5. その4 文翔窯 森田文一郎さんインタビュー
  6. その5 陶悦窯 今村堅一さんインタビュー
  7. その6 副千製陶所 副島謙一さんインタビュー
  8. その7 福珠窯 福田雄介さんインタビュー

株式会社 陶悦窯
 住所:佐賀県西松浦郡有田町南原甲778
 電話:0955(42)3464
 ホームページ: http://www.touetsugama.com

14代続く老舗窯元「陶悦窯」。フラッグス最年長・今村さん

今村さんは何代目の当主に当たりますか?

私は数えると14代目にあたります。

祖父の代までの三川内*にいて「三川内焼」の窯元として事業を展開していました。三川内は山あいで不便なところだったため、工場を構えやすい有田に移ってきたんです。三川内焼は元来献上品を扱うため、どちらかと言えば美術品のようなものを作ってきた産地ですが、移転したそのタイミングで商品ラインナップを大きく変えて現在のような食器類を中心に作るようになりました。

*三川内(みかわち)・・・
有田の隣町とも言える地域で現在の長崎県佐世保市。有田駅から約8km。


陶悦窯のモダンな食器

まず陶悦窯さんをご存じの方はこういったモダンなシリーズを思い浮かべるのではないでしょうか。

(写真)テーブルウェアフェスティバル2018での展示

このような和モダンの食器の数々を生み出す陶悦窯。彼らが有田焼創業400年事業で伝えようとした伝統とモダンに対する答えとは何だったのでしょうか?

フラッグス発表作品「ましら」シリーズのルーツ

さっそくですが、「ましら」シリーズについてお伺いします。

ましらfacebookページ https://www.facebook.com/masirajapan/

私の祖父(12代目)が「お茶の水差し」を作っていました。当時は茶道を嗜む人も多く、大きな需要がありましたが現代ではお茶を点(た)てることをすることが少なくなりほとんど使われなくなりました。

(写真)「ましら」のルーツとなった彫り込みの入った水差し

このような伝統を今にどうやったら活かせるか、という思想で考えたものが400周年事業として私たちの窯元の伝えたいこととして「家庭で使うもの」という方向性になってきたわけです。

(写真)陶悦窯2Fの展示より。新旧の作品が並んで展示されている

コンセプトを固めていくうちに、「食事に限らず部屋の空間を彩るもの」にフォーカスしたいと思い、「食器」ではなく「道具」というアイテムを選択することにしました。



「家庭の中で道具として使われながらお客様に楽しんでいただけるもの」を

昔のものにはインテリアとして通用するものも多くありましたよね?それは時代と共に移り変わっていくものだと思うのですが、そのような「生活の道具」として生活の空間にあるものを創りたいと思っていて、今の時代でも「部屋の隅に置いてあると格好いいもの」ができないかと考えました。

(写真)一番右が先々代までのもの、左3つが今回発表の「ましら」シリーズ

「茶道具」という特殊な道具に使われていた技法を、一般の家庭で広く使われるものに適用して作るということをコンセプトに入れてみたわけです。

「ましら」という名前の由来は?

「ましら」は、伝説に残る陶悦窯の3代目が殿様より賜った「如猿」(じょえん/ましら〈の〉ごと〈し〉が由来)という名前から。殿様を瞠目(どうもく)させた名人技にあやかりたいという願いを込めました。

 

「ましら」に込めた3つのこだわり

コンセプトだけでなく、技術や素材にも相当なこだわりがあるそうですね。

(写真)「ましら」を太陽光に透かしたところ。

1.複雑な模様を実現した「彫り込み」の技法

まず一つ目が「ましら」に取り入れた技法というのが「彫り込み」です。重さや厚みは相当開発に力を入れました。一番深い彫り込みが肉厚1mmになるように設計し、光が通る薄さになりました。

実はこちらの型の開発は全て今村さんの手作業で作成しています。この模様はかなり複雑で、高度な技術を要します。


2.未利用になる天草陶土の脱鉄陶石活用

また「ましら」は天草陶土の余り土を有効利用した特殊な土(脱鉄陶石)を100%使っています。原材料から大切に使うことを意識し、特殊な技術で不純物を取り除いた土を使っています。コスト面でも有効利用とはいえ高くついてしまうこの土ですが、使ってみると非常にきれいな白が出たので積極的に使うことにしました。

3.1300℃

長く大切に使ってもらうため、16〜18時間かけて1300℃まで上げて焼いています。陶悦窯では強度にこだわり、焼成時間をかけることで芯まできちんと堅く作ることを続けています。ここまでやっている窯元はそう多くはないはずです。

また「ましら」全商品ではないのですが、一番初めに手がけた茶筒というアイテムは技術的にもかなりの精度を要求されるため(フタと本体の大きさが合わないといけない)、その開発には大変苦労しました。

ずいぶん色のバリエーションがあるようですが?

これも陶悦窯の特徴なのですが、釉薬を自社で開発しているので独特な色が作れるんです。先々代が釉薬の試験が大好きで、かれこれ今は130色くらいあるのではないでしょうか。

今後もアイテムを増やすのと同時にいろいろな色の「ましら」を作っていきたいです。

つたえたいこと、ブレないようにしたいこと

今後はどのような展開を考えていますか?

今申し上げたような、たどり着いたコンセプトを大切にして、アイテムを少しずつ増やしてみたいと思っています。

12代もの間続けて来たのが美術品としての茶道具。そして先代が食器に転換して美術品を先代がバサっと切って成功したこともあり、今後をどうしていくかの指針を自分の代で明確にしたかったのです。

私を含め14代も続いて来たものがさらに続いていくための軸

美術品か食器か、の二択の話ではなくこれらを活かしてこれからどういうものを作り続けていくのか。自分たちが作っていることの意味は何なのか。

例えば、普段の作品は黒っぽいものが多いのですが、これも白ばかりやると「三川内焼」になってしまうから。それは三川内にいる彼らがやればよくて、有田にいる自分がどういうことができるのか?を自問自答しています。

最後に、今村さんご自身の今後についてお話し頂けますか?

フラッグスの活動は自分のところが得意なことを旗のように立てて、色々な人に伝え自分の子供にもつたえること。それが形になりつつある手応えを感じているところです。

焼き物は勉強すればするほど勉強することが出てきます。何百年と続けてきているものですが、時代によって学ぶことも変わってきているところにおもしろさと難しさを感じています。もっともっと勉強して、焼きものの良さをさらに引き出してみたいと思います。




【陶悦窯のうつわが展示されているショップ情報】

bowl(ボウル)

有田駅より徒歩3分、駐車場も完備のセレクトショップ。店主は今村さんと有田窯業大学校(現・佐賀大学芸術デザイン学部)の同級生。

店名の「bowl(ボウル)」は、形のないものを受け止める器という意味だそうです。”これからの人生に必要なものごと”をテーマに、新旧問わず身の回りの生活用品をはじめとした品々を幅広くセレクトされています。

名称:bowl(ボウル)

住所:〒844-0018 佐賀県西松浦郡有田町本町丙1054
定休日:水曜日
tel:0955-25-9170
営業時間:11:00~18:00
url: https://aritasu.jp/bowl/shop.php

佐賀県の特産品と全国のかわいいアイテムが揃っているとてもオシャレなショップです。

有田に訪れた際は外せないスポット。ぜひお立ち寄りください!

2018年5月[取材・編集 テーブルライフ編集部]

【関連記事】

  1. 【特集・フラッグス】有田で伝統とモダンを追求し続ける窯元集団!その1
  2. その1 貝山製陶所 藤本和孝さんインタビュー
  3. その2 皓洋窯 前田洋介さんインタビュー
  4. その3 親和伯父山 岩永真祐さんインタビュー
  5. その4 文翔窯 森田文一郎さんインタビュー
  6. その5 陶悦窯 今村堅一さんインタビュー
  7. その6 副千製陶所 副島謙一さんインタビュー
  8. その7 福珠窯 福田雄介さんインタビュー